Volunteer’s Report 018 フォスターアカデミー スペシャル2019に参加してきました
「フォスターアカデミースペシャル2019~犬と猫のアニマル・ウェルフェア~」に参加しました
八巻 千鶴子
去る11月16日、青山学院大学本多記念国際会議場にて、フォスターアカデミースペシャル2019(以下、FAS2019)が開催されました。雲ひとつない空の下、開場前から多くの参加者が訪れ、最終的には380名もの方々が集まる中、会場をお貸し下さった青山学院大学三木義一学長のご挨拶で、FAS2019が始まりました。
その模様をお伝えしたいと思います。
- 一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表 滝川クリステルさん ご挨拶
最初に登壇されたのは、財団代表理事の滝川クリステルさん。
滝川さんは、いかに動物に苦痛を与えずに殺処分をする方法はあるのか、その議論はされているのかを問題点としてあげました。
現在、横のつながりをもたないまま、各自治体独自の方法で行われている殺処分について、今後どう考えていくか、どうしたら動物の苦痛を減らすことができるのかを、専門家をはじめ、みなさんの声を拾いあげたものを、各方面へ伝えていきたいと語っていました。
2.一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル事務局長 堀江雄太さん
次に財団事務局長堀江さんより、財団活動内容の説明がありました。
プロジェクト・ゼロやフォスターアカデミーセミナー、ウェルカム・ペット・キャンペーン冊子の紹介など、色々な形で動物保護への啓発活動のアプローチをしていることを説明し、会場に設置された等身大の保護犬、保護猫の写真パネルによる、「PANEL FOR LIFE~命のパネル~※1」の紹介がありました。
webサイト https://www.panel-for-life.org/
※1 実際の保護犬・保護猫の等身大写真パネルについているQRコードを読み取ると、現在新しい家族を探している保護犬・保護猫の情報がみることができるものである。それをイベントや商業施設等に設置して頂き、多くの人の目にふれてもらう機会を得る活動のこと。
3.基調講演
「Tierheim Berlin -the biggest and most modern shelter in Europe, – assignments and challenges」
講師 アネッタ・ロスト(Annette Rost)さん(ティアハイム・ベルリンスタッフ)
通訳 野原真梨花さん(動物自然療法士・動物看護士)
アネッタさんより、ティアハイム・ベルリンの説明がありました。
1841年設立のティアハイム・ベルリンはヨーロッパ最大の動物シェルターで、サッカーフィールド約22個分の広さがあり、犬猫をはじめ馬やロバ、小動物からヘビなどのエキゾチックアニマルまで180名のスタッフと800名のボランティアで、約1,400頭を飼育しているそうです。
例えば、保護動物の中で一番多いのは猫を、病気やケガをした猫、親子の猫、一般の猫、シニア猫、外の猫など様々なタイプ別に施設を設置し、スタッフの対応も工夫を凝らすことによって、静かな猫を好むような方々とシニア猫のマッチング率がアップするなど、保護動物のことを考えた環境作りをされているそうです。
そして、「ドイツでの安楽死の在り方」についてですが、ドイツでは譲渡の可能性が低い子だからと言って、安楽死の対象になることは無いそうです。
但し、治療不可能な外傷、痛み、苦しみを伴っている場合、または、最も重度な行動異常を起こした場合には、ベルリン動物保護協会の倫理委員会が招集され、安楽死を検討するとのことでした。
その場合、安楽死の基準 ※2にのっとり、確かに安楽死以外の選択肢がないのかどうかの判断を行い、多数決にて安楽死の可否を決定するそうです。
このようにして、動物が生きる喜びが感じられず、痛みを取り除くことができないと判断を下した際に、安楽死を選ぶことも動物福祉であると、アネッタさんは語りました。
※2 重度行動障害を伴う犬に対する安楽死の基準となる12項目(ティアハイム・ベルリン)
1、その犬が顕著に苦痛を示す様子はあるか。
例)常同行動、自傷行為、無気力(無感情)
2、その個体の行動障害の原因として、疼痛や臓器系疾病を主治獣医が認めたか。
3、その犬が1回もしくは複数回以上、人間が認知できない理由でもって、あるいは行動障害のせいで、人や他の動物に怪我を負わせたことがあるか。
4、この犬はトレーニングが入った状態でなお、このような状況に陥るのか。
5、少なくとも2名以上のドッグトレーナー、または行動治療専門家が集中的にその犬との関係性を築いてきたか。長期間(通常3カ月間)にわたって行動観察がなされ、場合によってはビデオ録画を含み、記録がとられてきたか。
6、処方された向精神薬では成果がでなかったか。もしくはこの犬には処方できる薬がないのか。
7、少なくとも1回は、通常の西洋医学以外に代替療法等の対応策が考えられたか。または実行されたか。
8、その犬はティアハイム内において少なくとも2週間、ストレスが少ない環境下で過ごしていたか。
9、他の収容場所に移る可能性は検討されたか。
10、事故防止の策がなされた安全な状況下であっても、この犬を担当する人間全員が危険を伴うことなく、この犬を扱うことは不可能なのか。
11、この状況下では、犬種による特性を含め、この犬を生物学上あるべき姿の状態で飼育することは不可能か。
12.これがあなた自身の飼い犬だとしても、安楽死措置に賛成するか。
4.セッション1「動物のニーズを満たす」
講師 加隈良枝先生(帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科 准教授)
人による動物の利用や飼育を認めながら、動物ができるだけ苦痛を感じることなく、心身共に健康な状態で生活が送れることを目指すのが、動物福祉の考え方の基本だと説明されました。
そして、動物の常同行動(目的なく繰り返される行動パターン)などの行動を観察し、動物が何によってストレスを感じ、どういう状態であれば幸せなのかを考え、動物のニーズを見極めることが必要ですとのことでした。
適切な対応をするためには、固定観念や様々な基準にとらわれることなく、目の前にいる動物をよく見ること。また、彼らの状態を冷静に受け止めて、そのニーズを判断することが大切だと説明されました。
加隈先生は、「最終的には、殺処分はゼロにはなって欲しいが動物の命のあるなしだけではなく、動物が何を感じているのかということを考えて欲しい」と結んでいました。
5.セッション2「殺処分の方法の理想と現実」
講師 佐伯潤先生((公社)日本獣医師会理事・くずのは動物病院院長)
佐伯先生は臨床現場での安楽死について、講演をされました。
ご自身の病院での安楽死の流れを説明しながら、安楽死は獣医師に認められている最後の治療法とし、命を奪う事が正しいことなのかどうか、毎回悩むとのことでした。
但し、飼い主さんにとっては「最善の選択」であったと伝え、安楽死によって、その動物の苦痛から解放するのは、医師である佐伯先生の判断であると伝えることよって、飼い主さんがご自分を責めることがないように、努めて話されているとのことでした。
医師にとって、「死」は敗北ではなく、より良い別れをするための1つの選択肢として「安楽死」はあると考えていると述べられていました。
講師 田中亜紀先生(日本獣医生命科学大学助教)
アメリカでシェルターメディスン(動物保護施設に関わる獣医療全般のことをさす)を17年研究し、今年の3月にアメリカから帰国した田中先生は、アメリカでの「安楽死」は宗教観とは全く関係なく、考え方は非常に日本的であるとのことでした。
安楽死とは、サイエンス(科学)であり医療(獣医療)であるとし、動物に対して苦痛を最小限にして行う獣医療であると、田中先生は説明されました。
アメリカでは殺処分ゼロを掲げたことの悪影響として、シェルターが安楽死を行うことを避けることにより、シェルターの引き取り拒否や、逆に多頭飼育崩壊するなどの問題も出てきており、苦痛のままケージ内で死亡してしまう子もいるとのことでした。
安楽死の対象となる動物たちに対して、その子にとってどの方法がベストなのか、最も苦痛がないのはどの方法か、しっかり考えることが大切とお話がありました。
6.クロージングセッション
最後に講演者全員に再度お揃い頂いて、クロージングセッションを行いました。
佐伯先生からは「殺処分ゼロについては、正しい理解を周囲の方にして頂きたい。安楽死は動物の苦しみはもちろん、現場で対応している獣医師の苦しみはあるということを理解してほしい」と切なる訴えがありました。
加隈先生は「現場の人や飼い主を含めて、みなさんの意識、知識のレベルの向上をしていくことが重要」と述べられ、田中先生は「法律の整備を行っても問題がなくなることはないが、それでも解決をする抑止力にはなるので、しっかりと整備していくことが大切」と注意喚起されました。
アネッタさんからは「国が違えば状況も違ってくる。問題が何かも違ってくる比較するのが難しい」とあり、堀江事務局長からは「まずは、一人一人が学ぶ機会を得て、何ができるのか考えて行動していくことが大切だと思う」と、今回のFAS2019を締めくくられました。
以上