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Volunteer’s Report 013 フォスターアカデミー セミナー第29回に参加しました
photo by 半沢 健
9月1日、ヤマザキ動物看護大学にて、フォスターアカデミー セミナー第29回に参加してきました。
今回のテーマは「殺処分対象となった犬を保護し、譲渡するために」ということで、岡山県よりNPO法人 しあわせの種たち理事長 濱田一江さんを講師にお招きし開催されました。
「フォスターアカデミー セミナー第29回に参加しました」
八巻 千鶴子
さわさわと人の声がする。
熱気ではなく温かさが会場を包んでいるのが分かる。
周りに人が集まり、その輪の中心にいる人が講師の濱田一江さんだった。
そして、会場にはこれまでのフォスターアカデミーでは見かけたことのない参加者がいた。
――犬である。
飼い主の横にぺたりと座り、目をきょろりと動かしながら周囲の様子をうかがっている。
犬自身もこれから何が始まるかを知っているかのように、大人しくしている。
「こう見えても昔は引っ込み思案だったんです!」
どこから見てもそうは見えない濱田さんの声は、どこか人を安心させる声だった。
随所に映像を挟みながら、濱田さんが保護活動をすることになったきっかけや、動物のレスキューに奔走し現在に至るまでの話が語られてゆく。
胸にせまるような話や、思わずクスリと笑ってしまう話まで、ひとつずつ大切な思い出を教えてくれるように話してくれた。
その中のひとつに、濱田さんが初めて岡山県の動物愛護センターに見学へ行った時の話があった。
動物愛護センターの犬舎への扉が開かれると、一斉に犬たちが吼え出す。
思わず足がすくむほどの鳴き声に、濱田さんは檻の中にいる犬たちと目を合わすこともできなかったそうだ。
犬たちは、どんな思いで濱田さんに向かって吼えたのだろうか?
区切られた部屋を横目に進んでいくと、ひときわ重い空気が漂う部屋があった。
そこは、明日殺処分される犬たちがいる部屋だと教えられたそうだ。
自分の運命を悟り、ただの塊となって動かずにじっとしている犬たち……。
私はその話を聞いて想像する。
思わず耳をふさぎたくなるような鳴き声と、必死に死の影を振り払おうとする犬、そしてすべてを諦めてしまった犬。
私なら、きっとその状況に立ちすくんでしまうだろう。
もしかしたら、犬舎に足を踏み入れることができないかもしれない。
けれど濱田さんは自分の無力さを知った上で、「微力」でも、ひとつひとつが集まれば何かできることがあるかもしれないと考え、その後NPO法人を立ち上げたとのことだった。
「あの子たち……」と温かい声で濱田さんが語る様々な犬や猫たちの話は、決してハッピーエンドばかりではない。
老齢や病気、または人慣れしていない保護犬・保護猫に対して人に慣れるための訓練を施し、新しい飼い主を探していく。なかでも難しいのは噛み癖のある犬や野犬だそうだ。
殺処分もやむを得ないとされている「あの子たち」に命をつなぐ可能性がある限り、自分達だけではなくプロの訓練士の手を借りてでも、なんとか譲渡への道は開けないかと模索する日々の様子に胸がつまる。
こんなに人がいる場所で泣いたのはいつぶりだろうか?
ひとつひとつのエピソードに悲しいとか、かわいそうとかではなく、それを超えたところで心が揺さぶられた。
おそらく命に限りがあるではなく、命に限りを作られてしまうことが現実にあるのだということが目の前に差し出され、「あなたならどうする?」と問われている気がしたからだ。
現場で常に問題と向き合っている濱田さんは、そういう想いをどう乗り越えてきたのだろうかと考えた。
心が折れそうになる時にはどうしているのかと、講義が終わってから濱田さんに聞いてみた。
「原点にもどること。心折れるのは私の勝手だけど、そんなことであの子たちの命が奪われることはあってはならない。私はあの子たちを救いたいと活動している。その原点に戻ると乗り越えられる」
そう答えてくれた。
講義中にしあわせの種たちから犬を譲渡された人々に起立してもらい、一言ずつ頂く場面があった。
すると、驚くべき人数が立ちあがった。
そして、各々のもらいうけた犬と自分との物語を短く語る。
犬と人が出会い、人と人とをつなぎ輪となって広がっていくのを目の当たりにした。
その話に耳を傾けている濱田さんは、本当に嬉しそうな顔をしていた。
濱田さんは言う。
「あの子たちは、本当にしあわせの種なんです……」
その声に導かれるようにして、それぞれが思い浮かべる犬や猫に思いを馳せる。
お互いが一緒に暮らすようになった理由は様々である。
自分にとっての「しあわせの種」である犬や猫たちとどのように生きていくのか、改めて見つめ直したのではないかと思う。
最後に、濱田さんが考える幸せとは何かとたずねてみた。
「愛するものの幸せを守れる自分でいることができたら、一番幸せだと思います」
ぶれることのない濱田さんの姿勢に、今日もたくさんの人が集い、しあわせの種たちを助けようと共に走っている気がする。
(了)