日本動物福祉協会主催『シェルター・メディスン・セミナー』に参加しました(2023)
2023年7月22日(土)に日本獣医生命科学大学(東京都武蔵野市)で開催されたシェルター・メディスン・セミナー(主催:公益社団法人日本動物福祉協会)を事務局スタッフが受講しました。講師は、当財団のAnimal SOSプロジェクトでも大変お世話になっている田中亜紀先生(日本獣医生命科学大学特任教授)です。会場にはこれまで取材などでお会いしたことがある保護団体の皆さん、企業の皆さん、それに各地の行政獣医師さんのお顔も見られました。わずかな時間でしたが近況報告などもでき、やはり対面の講座は良いなと感じました。
セミナーの冒頭はシェルターメディスンの基本的な説明から始まりました。シェルターメディスンの基本は郡管理であり、集団飼育されているブリーダーやペットショップ、多頭飼育の一般家庭にも応用できるということ。シェルターに関わる獣医療の大きな役割は、地域の安全(動物福祉と公衆衛生)を守ることであり、対象動物はシェルターの中の動物だけでなく、地域の余剰動物(シェルター予備軍)や地域の動物全般も含まれること。シェルターは感染症やストレスなどのリスクが高い場所であるため、「健康で良い子」が収容されたら長期間滞在させず「健康で良い子のまま」に譲渡する事が大切であること。そして病気になった、問題行動が出た、チャンスがないなど譲渡ができない動物たちに科学的なアプローチで改善を試みることも、シェルターメディスンの重要な役割であることが紹介されました。
今回は特に動物福祉、5つのドメインについて詳しくお話いただきました。動物福祉(アニマルウェルフェア)=5つの自由という認識は日本でも広まりつつありますが、専門家の間では5つの自由から派生した5つのドメインが主流になっているそうです。5つの自由は飢えや乾き、痛みなどネガティブな状態を回避することに主力が置かれている一方、動物の情動状態に注目しポジティブな経験とポジティブな福祉が重要である、食についても満腹になれば良い訳ではなく、満足度やエンリッチメントが問われる福祉の状態を重視するのが5つのドメインになります。
- 英語のwebサイトになりますが、5つの自由と5つの領域(Five Domains)を比較した表がありました。ご参考まで。
https://www.worldanimalprotection.us/blogs/five-domains-vs-five-freedoms-animal-welfare
午前中は「シェルターでの収容能力」がテーマでした。シェルターの収容可能頭数は、ケージの数ではなく、動物たちの滞在時間や日々のケアを提供するスタッフの人数(熟練度により大きく変わる)などの数値から算出すべきであること。良い循環を作るには、滞在時間を短くすること=譲渡を早めることが不可欠であるため、さまざまな譲渡を促進する工夫も紹介されました。先程の5つのドメインにも通じる工夫として、海外のシェルターで採用されているQuite training(クワイエット・トレーニング)も紹介されました。譲渡可能な犬がいる部屋(ケージ)の前に、その犬に必要なドライフードやオヤツをボウルなどに入れて置いておきます。犬の前を通る見学者がオスワリをさせ、静かにオスワリできたら手からフードやオヤツをあげるというトレーニング方法です。シェルターなどで人が来たら吠えてしまう犬に対して、人が来た時に静かにしてオスワリしたら良いことがある(フードやオヤツがもらえる)と覚える(=譲渡が早くなる)と同時に、食事の満足度を高めることにも繋がる工夫です。
昼休憩を挟んで午後は「頭数管理の科学的知見」のお話が続きます。例として外猫の問題、公衆衛生の観点や近隣住民からの苦情、野生動物の捕食や在来種の絶滅などの事例を挙げ、様々な解決策が提示されました。日本で主流のTNR(Trap-Neuter-Release)により頭数制限に効果を出すためには、長期間続ける忍耐力と捨てさせないこと、そして飼い猫の不妊手術が必要になることが多くのデータを用いて紹介されました。一方でTHVR(精管結紮/子宮摘出:Trap-Hysterectomy-Vasectomy-Release)によりホルモンを残し、外猫の通常の社会行動を維持させる方法を採用すると、頭数制限効果はTNRよりも高いことも紹介されました。ただ、まだまだ日本では一般的な手技ではないようです。
結論として、シェルターに動物を来させないためにも、地域の余剰動物を作らないためにも、不妊手術(早期不妊手術含む)と動物福祉についての教育が欠かせないというお話でした。特に教育については啓発が主な活動の柱である当財団でもより一層注力する必要があると感じました。
次回のシェルター・メディスン・セミナーは2023年11月後半に開催予定だそうです。詳細は、公益社団法人日本動物福祉協会さんのホームページ「セミナー開催情報」をご確認ください。
https://www.jaws.or.jp/