財団のレポートで
支援活動を読み解く
保護犬・保護猫を引き取る選択肢を広めることを目的に、WELCOME PET CAMPAIGNに取り組んでいる当財団へ、素敵なエピソードとお写真が送られてきました。
許可をいただきましたので、皆様にも共有させていただきます。
令和最初の犬の日に、ご一読いただければと思います!
(涙腺が弱い方が電車など公共の場で読まれる際は、くれぐれもご注意ください)
突然のメールをお許しください。「保護犬・保護猫と幸せに暮らすために」 という冊子をたまたまいただきました。拝読し、ぜひ一人っ子の息子にワンコの弟ができたエピソードを知っていただきたいと思い、送らせていただきます。生き物好きな息子が「犬を飼いたい」と言い出したのは、5年前。彼が5歳のときでした。しかし、幼いころから生き物と暮らした経験が一度もなく、またいっさい興味もなかった夫の回答は「そんなのだめだ。無理に決まってるだろ」の一点張り。息子は、通りすがりの犬連れの方に片っ端から声をかけては、ワンちゃんとひととき遊ばせてもらうことを趣味のように続けていました。
そんなふうにワンコと触れ合えば触れ合うほど、犬を飼いたい思いが募っていく様子でした。我が家の状況が一変したのは、息子が3年生になった去年のことです。息子はいつになく強い決意で、「こんどのボクのたんじょうびプレゼントは、ぜったいに犬にして!」と宣言。夏休みの自由研究のテーマを「犬はかせになる!」と決め、巻頭に「犬についてたくさん勉強して、父にも知ってもらって、父に犬を飼ってもいいよと言ってもらうのが、この研究の目的」であると記しました。そして、犬の歴史や犬の飼い方を本で調べたり、犬を飼っている友達や知り合いにアンケートをとったり、それはそれは熱心に取り組みました。その過程で、犬や猫が殺処分されている現実も知りました。その数が、自分が住んでいる町と周辺の町の人口を合わせた数とおおよそ同じであることを知り、たいへんなショックを受けていました。そんな息子のことを私は友人(ある保護団体から9年間繁殖犬として酷使されてきた犬を家族に迎えている)に話しました。すると友人は、息子をある譲渡会へ連れていってくれました。歓迎してくれた保護団体のスタッフさんから、譲渡会に参加している犬たちがそれぞれどんな目に逢ってきたのかを聞いて、黙ってなにかを考えこんでいる息子の姿が印象に残っています。夏休みの自由研究「犬はかせになる!」にはこの譲渡会訪問レポートも加えられ、大学ノートまるまる1冊にわたるほどの大作となりました。主人はといえば、息子が強い決意をもって研究に取り組む様子をみて、もう制作の途中で覚悟を決めたようでした。息子の誕生月である8月に入るとまもなく、ついに「犬を飼ってもいいよ」と息子に声をかけたのです。歓声をあげる息子と一緒に、すぐ件の保護団体のホームページの「新しい飼い主募集」を覗きました。すると、「キャッ!」とはしゃいでいる感じの笑顔をうかべる1匹の子犬の写真が目に飛び込んできました。息子と二人で思わず「かわいい!」と声をあげ、詳細を確認しました。推定年齢1歳、ブリーダー崩壊による放棄犬。おりの外のことはなにも知らない、まっさらな子。…といったようなことが書かれてありました。その犬が「パピヨン」という犬種であることも知らないまま、善は急げとばかりに保護団体に問い合わせをしました。聞けば、その子犬の情報をサイトにちょうどアップしたばかり、私たちが最初の問い合わせだということでした。
これはもう運命だ!と息子と大はしゃぎしながら、ドキドキして保護団体からのリアクションを待ちました。保護団体からの詳細な聞き取り調査を経ると、もうそこからは嘘みたいにトントン拍子で話が進んでいきました。お見合いをし、我が家が第一候補に選出されたと連絡をいただき、お試し同居の打ち合わせをし…。保護団体のみなさんが我が家の事情を知り、なんとか息子さんの誕生日に間に合わせましょう、ワンコと息子さんが一緒に成長していってくれることを願っています、とご配慮くださったのです。心のまっさらな小さな子犬は、息子の誕生日の前日8月19日に我が家にやってきました。息子が子犬につけた名前は「マモル」。ヨーロピアンなこんな美しい犬に、そんな和風な名前⁉ と驚きましたが、理由を聞いて納得。「これからはボクたちが君を守るよ」という「やくそくの名前」だということでした。犬との生活は初めて。勝手がわからない我が家は上を下への大騒ぎでした。
息子と私は交代でマモルを抱いて、「大丈夫だよ~。こわくないよ~」と声をかけ続けました。
歩けるだけの十分な筋力がなかったのと、怖さとで、外に出ると座り込んでしまうので、散歩にも抱っこで出かけました。生き物が苦手な夫は、少し離れたところから口だけ出しました。…そんなスタートから、1年とちょっとが過ぎました。マモルは元気いっぱいの甘えっ子。私たち家族に、日々愛と笑いをプレゼントしてくれています。一人っ子でやはり甘えん坊の息子。時々マモルを押しのけて私の膝に乗ってきますが、弟の面倒をよくみる優しい「にいに」に育ってくれています。
仲良しきょうだいは、ともに健やかに成長しています。夫も、時間をかけて少しずつ少しずつマモルとの距離を縮めていきました。今では散歩、トレイの世話なども積極的に担当します。マモルがいちばん好きなのは、ひょっとしたら夫なのではないか、と嫉妬を覚えてしまうことも…。いつか来るマモルと永遠の別れを思うと、もうそれだけで泣けてきてしまいます。マモルと私たちでつくるこの楽しくて幸せな日々は、いちばんの宝物です。人間のせいでつらい目にあう生き物が減りますように。やがて、そんな事例が一つ残らずなくなりますように。願ってやみません。江森文子拝