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東京弁護士会「人と動物の共生する社会について考える −畜産動物を中心に−」に行って参りました

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photo by 半沢 健

2022年7月16日(土)に東京霞ヶ関にある弁護士会館にて開催された「人と動物の共生する社会について考えるー畜産動物を中心にー」へ事務局スタッフが行って参りました。この会は東京弁護士会公害・環境特別委員会の弁護士の皆さんが動物部会を設け企画・運営されており、過去には「動物殺処分における法的課題」や「ペット流通のあるべき姿を考える」など愛玩動物の殺処分をテーマに開催されました。今回は畜産動物が中心でしたが、アニマルウェルフェアという概念はそもそも畜産動物から生まれたものであり、大変良い勉強になりましたので概要を共有させていただきます。

 

主旨説明は、フォスターアカデミー オンラインセミナーで「動愛法2019年改正 〜数値規制〜」について教えてくださった島昭宏先生(東京弁護士会公害・環境特別委員会副委員長)でした。保護法益の観点から愛玩動物でも畜産動物でも同様に権利侵害があるのかどうかが問われるのが法律であり、営業の自由・表現の自由・学問の自由が保証されている人の権利を制限することは非常に難しい立て付けに法律がなっていること。その中で動物愛護管理法の目的(1条)にある「人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とする」から、人と動物の共生する社会に生きることが人にとっての利益であるという考え方「動物共生権」を採用することで解決できる問題が多くあるのではないかというお話でした。

※ フォスターアカデミーオンラインセミナー第84回では、島先生が考える動物共生権について説明くださっていますので、そちらを是非ともご覧ください。https://youtu.be/V06r1TST6Rg

 

今回の基調講演は松木洋一先生(日本獣医生命科学大学名誉教授)による「アニマルウェルフェア 畜産の現状と課題」でした。まず畜産動物についてEUでは、単なる農産『物』ではなく、感受性のある生命存在であると定義づけられていること。またアニマルウェルフェアを向上させることにより、質の高いウェルフェア食品と畜産動物からセラピー効果が得られることで、人と家畜が相互依存する”ウェルフェア共生システム”が成り立つことが紹介されました。EUではアニマルウェルフェアが担保された環境で畜産動物を飼育すると補助金が出されるなどの取り組みも行われてきたそうですが、財源確保も難しく現在では、アニマルウェルフェアが担保された環境で育った食材であることを保証するマークを付けるなどし、消費者がより良い食品を選択できるよう市場化が進められているそうです。畜産動物のアニマルウェルフェアにおいても日本はヨーロッパよりも2、30年遅れていると言われることもあるそうですが、松木先生によると欧米でもアニマルウェルフェアを宣言しても実行が伴わない場合もあったり、OIEなどの国際機関でも科学より政治が優先するケースも見られるそうです。また有名な生類憐れみの令以前の675年には天武天皇が食肉禁止令を出したこともあり、日本では畜産動物の同居飼育が行われきた歴史が長く、潜在的には日本人はアニマルウェルフェアの考え方を持っているのではないかと仰っていました。八百万の神という考え方や岩手県にある曲がり家など、日本には人と動物を明確に線引きしない考え方や生き方が過去に存在していることを考え合わせると非常に納得のいくお話でした。

※ 松木先生から紹介があった日本のアニマルウェルフェア畜産に対する情報サイト http://awfc.jp/

 

他にも公害・環境特別委員会の皆さんからは家庭動物や実験動物、動物園動物、野生動物に関する報告も行われました。家庭動物についてのお話では、元の所有者から動物の所有権放棄をしてもらう際は書面だけでなく動画でも記録しておくことで後々トラブルにならないという具体的なお話もありました。後半のパネルディスカッションでは生産の現場で日々畜産動物と接しておられる方や、流通で様々な食品を扱っておられる方のお話なども伺える非常に貴重な機会でした。動物愛護の分野では犬や猫が中心に議論されることが多い一方、私たちが口に入れる食品、その先にいる畜産動物についてはまだまだ理解が不足していることを痛感させられました。様々なアプローチでアニマルウェルフェアへの理解を進めることが、人と動物が共生できる社会を実現するためには欠かせないことから、今後も幅広く情報を得て活動に活かして参りたいと思います。