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Volunteer’s Report 014 フォスターアカデミー セミナー第30回に参加しました

10月27日、ヤマザキ動物看護大学にて、フォスターアカデミー セミナー第30回に参加してきました。今回のテーマは「日本の動物福祉の現状~虐待の現場から~」、講師は公益社団法人 日本動物福祉協会 獣医師調査員の町屋奈先生でした。

「フォスターアカデミー セミナー第30回に参加しました」

 八巻 千鶴子

今回の講師、町屋先生が簡潔に説明しながらパワーポイントのスライドを操作していく。

いくつかの虐待事例をもとに話が進んでゆく。

スクリーンに参加者に見せることのできる範囲の映像が流れる。

画面いっぱいに映し出されたおびただしい数の犬。吠え続ける声が互いに重なり、ものすごい騒音となる。

職員が首輪を無造作につかみあげ、犬を移動させようとしている。犬は首をつられたまま、その手から逃れようとして暴れ続ける。

――人の考えていることなんて分からない。

映像を見て、そんな当たり前のことが頭に浮かぶ。

同じ命あるものに対して、どうしてそんな仕打ちができるのかと私は眉をひそめた。

淡々と続く職員の行動に憤りを感じながら、犬の悲痛な鳴き声に思わず画面から目を背けたくなる。

ジャングルジムのように積み上げられた汚物まみれの檻の中で、何頭もの犬が生気のない目をカメラに向ける。

その檻の中に、片足をひょこりとあげているチワワがいた。

レーザーポインタの赤い光が、スクリーンに映っているチワワの足をくるりと囲む。

「細いワイヤー格子状の床面は、四肢にかなり負担がかかりますので、ワイヤーケージで長期間飼われている犬の多くに、痛みからかこのように一本足を上げている状態をよく見かけます。」

可愛く見えるその仕草も、痛みから生まれたものと知ると胸がしめつけられる。

町屋先生は一度も腰かけることなく、レーザーポインタを握りしめながらひたすら説明を続ける。

限られた時間の中で、たくさんのことを知らせようとする熱い思いが伝わってくる。

いくつかの事例が紹介されたが、不起訴となり悔しい思いをすることも多いという話だった。

現時点では判例も少なく、法的な整備が追いついていないことや、警察や検察はあまり動物問題に詳しくはないということ。また、虐待を疑った時に相談できる中立的な専門機関が無い又は周知されていないことなど、問題点は山積みであると町屋先生は指摘する。

私達にも何かできることは無いのだろうかと考えてみる。

好奇心からでもいい。

何かおかしいと疑問を抱き、動物に対して気になったことを心に留め置いてみる。

ひとりひとりの小さな気付きが、いつしか動物をとりまく環境を好転させ、法的に守られる立場へと変化するかもしれない。

そんなことを考えながら町屋先生の話を聞いていた。

私達が最初にできることは、やはり動物虐待の問題から目を逸らさないことだと感じた。

 

意図的な虐待もネグレクトも、動物福祉先進国である英国では量刑は一緒だと町屋先生が言う。

「英国で一番重い罪のひとつは、餓死です」

町屋先生の言葉を聞いた時、はじめはぴんと来なかった。

「虐待時間の長さが、つまり動物が苦しむ時間が長ければ長いほど罪が重くなります」

ハッとした。

そして、すぐに理由に気づけなかった自分を恥じた。

私は、死を迎えるまでの気の遠くなるような長い時間を思う。

動物たちが最後に見たものは何だろうか。

その心に浮かんだことは何だったのだろうか。

彼らと言葉で意思の疎通はできない。ただ命あるもの同士として認め合い、生きてゆければいいだけなのに、餓死してしまう。中にはミイラ化して発見されることもあるという。

きちんと食事と水をとることができる。清潔な場所で寝起きができる。決して高望みをしているとは思えないのに、それが叶わない動物もいるのだということを思い知らされる。

町屋先生に、数々の悲惨な現状を見ても前向きで居続けるために、どうやって気持ちを維持しているのかたずねた。

「実は私も全然前向きではないです」

そう教えてくれた。

精神的にきつい時がほとんどだけれども、心がけていることが二つあるという。

一つ目は、犠牲になった動物たちの命や経験を無駄にしないこと。

町屋先生は以前、ある野良猫の行方不明・不審死が起こった際、死体を検案・検証できる獣医がいなかったために、証拠不十分で事件化することができなかった経験があると言う。

これをきっかけに法獣医学の必要性を感じ、研修セミナーの開催や、虐待疑いの検案・検証体制を整えていくことに尽力したそうだ。

二つ目は、自分の求める目標の実現を焦らないこと。

動物問題は、自分の望む結果が出なくても、結果に対する分析、次の対策など継続的な活動が大切だと町屋先生は考えている。

自分達にできることは種まきであり、自分達の代でその種が育たなかったとしても、次の代で大きく育ってくれるよう、上手にバトンタッチができればいいと考えるようになったとのことだった。

少しでも改善していくように努めることで、負の感情を昇華しているところがあると言う。

「常に『焦らず、腐らず、諦めず』の精神を心がけています」

そう締めくくった町屋先生の答えは力強く明快だった。

 

今年の夏に日本獣医生命科学大学で、法獣医学研究グループが設立されたそうだ。

現在は警察や検察を含む行政機関からの相談のみを受けているそうだが、いずれ積極的に警察や検察が活用するようなって公正な判決につながってゆけばいいと、町屋先生は語る。

数々の問題が一足飛びに解決できたらいいと願うけれど、それが難しいことは分かっている。

動物のための法整備に向けて、また一歩進むことができたと考えるほうが、未来が明るくひらけてゆく気がする。

そして、町屋先生の心がけを思い出す。

――焦らず、腐らず、諦めず。

ほんの少しの進歩でも、それが動物の未来へつながると信じて……。