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Volunteer’s Report 016 フォスターアカデミー セミナー第35回に参加してきました

7月15日(日)青山学院アスタジオにて開催された、フォスターアカデミーセミナー第35回に参加してきました。今回のテーマは「動物福祉に配慮したブリーディング」ということで、NPO法人ホワイトスプレンダー代表理事、専門学校ちば愛犬動物フラワー学園顧問である、細田信幸先生が講師としてお話しくださいました。

 

 

「フォスターアカデミー セミナー第35回に参加してきました」

 

三浦 新

私はペットショップに縁がない。

飼っているのは猫なのだが、小さい頃は野良猫や捨て猫が家猫へ昇格し、現在は、保護猫を飼っているので、お金をかけたことは一度もない。餌や備品も、近所のスーパーで済ませているので、ペットショップがある場所は知っていても、中に入る用事がない。そんな私にとって、ブリーダーのイメージは「ペットショップに並んでいる、血統書付きの由緒正しい動物をつくっている人」である。動物をお金で買ったことが無い私には、一生縁がない人達だと思っていた。

 

今までのセミナーは、様々な形で「命を救う」話が中心だったが、今回は「命をつくる」話である。珍しいテーマに、開始時間よりかなり早い時間から席が埋まっていく。

会場にものすごく背の高さが目立つ人がいた。その方が細田信幸先生だった。

ブリーダーと呼ばれる方を、私は初めて見た。

ブリーダーには色々カテゴリーがあり、流行りの犬種を商品化して、儲けるために仔犬を産み出す人や、純血種の良い犬を後世に残したいと考えている人もいる。

繁殖と言っても色々な考え方、目的を持った人たちがいるということである。

「純血種であれ、なんであれ、仔犬を産ませる目的は何か。そして、産まれた命に、最後まで責任を持つことができるのか。繁殖には覚悟が必要だ」と、細田先生は語り始めた。

細田先生がブリーダーを目指したきっかけは、ただの愛犬家だった二十七年前に遡る。

奥様が欲しかった犬種がおらず、代わりに勧められた、白いふわふわのグレートピレニーズの仔犬のかわいさに、迷わず飼う事にしたそうだ。

グレートピレニーズは、羊を狼から守る使役犬で、アニメ「名犬ジョリィ」のモデルとなった超大型犬である。この犬は、犬が好きというだけで飼いこなせる犬種ではないことを、この後、細田先生は思い知らされることになる。

飼い始めて一年も経たない頃、身内には優しいが知らない人には攻撃するという、グレートピレニーズの特性のひとつが表れ、細田先生は悩まされることになる。

人と会わないよう、お散歩時間を真夜中に変えたり、矯正しようとドッグトレーナーの元へ連れて行ったり、思いつくことは全て試してみたが、見知らぬ人へのかみつき行動が止むことはなく、相談する人全てに、安楽死を勧められたそうだ。

それでも、なんとか頑張って共に過ごしていたが、とうとう餌をあげる身内まで噛んでしまった。

飼い犬の問題行動に追い詰められ、疲れ果てた細田先生やご家族は、安楽死を選択した。

腕の中で亡くなった犬を抱きしめながら、細田先生は決心をする。

「誰にでもかわいがってもらえる、グレートピレニーズを俺がつくる」

細田先生が二十七歳の時のことだそうだ。

もし、安楽死させてしまったグレートピレニーズに問題行動が出なければ、と何度も考えたに違いない。

命を奪ってしまったことで、大抵の人がもう犬は飼わないと決心するところを、今度は誰からも愛される子をつくると決心するなんて、私には到底できない。

この「繁殖」の世界を目指すきっかけこそが、細田先生の強い覚悟を明確に表していると感じた。

 

誰からも愛される犬をつくるにはどうしたら良いのだろうか。

細田先生は、犬の一生は、ブリーダーが生後二か月までに、どれだけ手をかけられるかにかかっているという。

「手元にやっときた仔犬たちが、初日からいい子であれば、飼い主は喜び、その犬との時間を作るのを惜しまなくなり、飼い主が手をかけるようになる」

細田先生がさらりと言ったその言葉は、当たり前のようなことだが、実はとても大切なことである。

「トイレのしつけや、どこに連れて行っても大丈夫な良い犬であれば、共に時間を過ごすことが多くなるし、飼い主と一緒にどこへでも出掛けられるようになる。

もし、トイレの失敗や夜鳴きなどに悩まされ、飼い主が一緒に暮らしていて楽しくないと感じてしまったとしたら、その瞬間から、飼い主と犬の間に溝ができてしまう。

そうならないように、甘噛みの力加減など、早くから親兄弟犬と引き離さずに、犬同士ではないと教えられないものを教わる時間を作ることや、仔犬の目が開く前から、腹を見せて手で触ることにより、人の手は温かいということを教え、大勢の人と触れ合うことによって、人との接し方を覚えさせたりすることなど、ブリーダーが、産まれてきた仔犬にしてあげられることはたくさんある。

もちろん親犬に対しても、母体が健康で負担のかからない年齢の間だけ繁殖をさせるなど、考慮すべきことがある。

どういう選択をするか、ブリーダーの考えひとつで犬の人生が変わってくる」
細田先生は、「初日からいい子であれば飼い主は喜ぶ」の意味を、私達に解き明かしてくれた。

犬の人生をブリーダーが握っているとすれば、良いブリーダーの見分け方はあるのだろうかと疑問に思って、細田先生にたずねてみた。

もし、次迎えるならこの犬種と決めたら、まずは自分もその犬種のことを勉強することだそうだ。

そして、ブリーダーの元へいき、質問を投げかけることによって、どのような答え方をするかで、そのブリーダーの知識量も、考え方も推し量ることができる。

迎え入れる犬のためにも、自身がしっかりと学ぶことが大切だと、細田先生は教えてくれた。

 

どの犬種を選ぶのか、どのブリーダーを選ぶのか。

純血種の犬たち、雑種の犬たち。そして、どこかで見たような気がするが、何の犬種か分からない犬たち。

近頃、そんな犬が増えている気がしたが、私は、新しい犬種なのだろうと思っていた。

どうやら、それは「ミックス犬」と呼ばれる犬たちだったようだ。

例えば、チワワとミニチュアダックスフントで「チワックス」、マルチーズとトイプードルで「マルプー」など、二種の純血種を掛け合わせて産まれた犬種である。

恐らく最初は管理ミスにより、産まれてしまったのだろうが、姿形のかわいさから、今や純血種より高値がつくこともある。

しかし、ミックス犬は犬種として未確定要素が強いため、先天性疾患があるかもしれないし、どのような性質が表出するかも分からないという不安要素もあり、迂闊に交配を進めるのは難しい。

その子孫たちが、どのようになっていくのかが分からないからである。そして、かけあわせによっては障害を持って生まれる可能性の多い犬種同志もあり、交配を禁止しているものもあるそうだ。

ミックス犬と雑種の違いが分からず、細田先生にたずねたところ、「野犬同士だろうと、異なる純血種同志だろうと、純血種同士の交配によって産まれた犬以外はすべてミックス(=雑種)」と先生は考えているとのことだった。

中には、ラブラドゥードル(ラブラドールレトリーバーとプードル)のように、犬アレルギーがある人のための盲導犬として、きちんと目的があって産み出された犬もいるが、まだ正式な犬種のひとつとしては、認められていない。

純血種、ミックス犬、いずれのブリーダーの方もいる。

パピーミル(仔犬の大量生産を行う)と呼ばれる方もいる。

同じ繁殖でも、ブリーダーの考え方ひとつで、産まれ落ちる命の行く末が違ってくる。

飼い主として、その工程を知らずに受け入れてしまってはいけない。

自分の家族として迎え入れる犬は、どういう人にどういう風に育てられ、そして、その犬種はどのような犬なのか、決して人任せにしてはいけないということだと、私は感じた。

 

では、良い犬とは何だろう。

良い犬を後世に残したい。犬質向上のために、日々努力を重ねて繁殖に携わる方がいる。

彼らは、純血種の繁殖をしている。私がイメージしていたブリーダーである。

まず、犬種によって、スタンダードと呼ばれるものがあるそうだ。

どのような毛色で、どのような骨格で、どのような性質があるのか。後世にのこしていきたいという理想形がスタンダードである。

そのスタンダードに近いものが、良い犬と考えられているという。

細田先生の考える良い犬とは何かと尋ねた。

「一番重視するのは、性格の良さです」

細田先生は迷わず答えた。

繁殖に携わる人間として、後世にこの犬種を残したいと考えた時には、その犬種の「スタンダード」をなくしてはならないと考えているが、それにプラスして「性格の良さ」というのは、人間と共に生きることを考えればとても大切な要素であると話してくれた。

その答えを聞いて、私はどこかほっとした。

 

三十年近く、繁殖という難しい仕事をしてきた細田先生が、ブリーダーになれたと思った瞬間がいつだったのか気になって聞いてみると、「その子たちが三歳くらいになった時」と言われたが、私にはぴんと来なかった。

両親犬を見て、ある程度の想像はついても、仔犬の育つ環境ですべて違ってくるので、結局のところ、飼い主さんの手元へ行った後、どう成長していくのか細田先生には分からない。

数年を経て、飼い主さんから、「すごくいい子ですよ」と言われた時に、ようやくブリーダーになれたと思ったと語っていた。

細田先生は、これまで約百頭のグレートピレニーズを世に送りだしたという。

一頭も問題行動を起こすことなく、愛される家族として飼い主と共に過ごしている。

最後に、恐らく細田先生が、一番天寿を全うしてほしかったはずの犬の名前をたずねた。

繁殖の道へと導くきっかけとなった、グレートピレニーズの名前。

単純なんですけど……と前置きして、こう答えた。

「グレートピレニーズのグレート」

細田先生は恥ずかしそうに笑っていた。